【ニュース】
Multiple citizenship, is a person's citizenship status, in which a person is concurrently regarded
as a citizen of more than one state under the laws of those states.
【訳】多重国籍multiple citizenshipは、複数の国家の法律のもとで、複数の国籍を同時に持つ人々のことを指している(Wikipediaより)
【解説】
アメリカのアイデンティティとはそもそも何でしょうか。
よく、アメリカは移民の国といいます。しかし、ただアメリカは人種のるつぼmelting
potで、そこでの多様性こそがアメリカのアイデンティティだとして片付ければ、それは大きな誤解を導きます。
まず、19世紀以前のことを考えます。飛行機も、高速で航行する船もなかった時代、海を渡ってアメリカにやってくることは、生まれ故郷と訣別する覚悟が必要でした。
新大陸に着いた以上、好むと好まざるとに関わらず、そこで生活を切り開かなければならかったのです。
従って、人々はアメリカ人になること、つまり独立戦争以来アメリカが掲げてきた理念を見つめ、そこでの生活の基盤を造らなければならなかったのです。
その象徴が星条旗であり、ニューヨーク湾にあって海を渡ってきた人々を見つめていた自由の女神だったのです。
少なくとも、アメリカに来れば、宗教的な迫害や身分の差による苦役に見舞われることなく、自分の生活を自分の意思でコントロールできました。もちろん、そこは腕力と才覚次第の厳しい競争社会で、人種同士の対立や騒乱に見舞われることもありました。良きにしろ悪しきにしろ、そこは個人の運と意思以外に頼ることができない世界でした。それがアメリカの「自由」だったのです。
そしてそんな自由を保障していた制度はといえば、そのルーツはイギリスの議会制度にありました。17世紀にイギリスは2度の革命を経験しています。いわゆる清教徒革命と名誉革命です。この2つの革命を通して、それまでの王が絶対的な権力を行使していた政治制度を改革し、市民が運営する議会と、議会が選ぶ内閣が国をリードするようになりました。
アメリカでは、イギリスで培われた民主主義のビジョンを、新大陸の実情に合わせて深化させたのです。まず、個々の移民が、それぞれの事情やニーズによって入植した経緯から、それぞれの地域の自治を最大限に尊重し、それを統一する連邦政府は国家として必要な最小限の権限を持つように、分権主義の道を追いかけます。
その上で、国家が分断されないように、アメリカとしての意識の象徴として星条旗がそして、そのビジョンをリードする選挙で選ばれる大統領が必要とされたのです。
ですから、アメリカ人は、国旗に我々が思う以上の愛着を持っています。そして、大統領の演説を聞きながら、自らのアイデンティティを確認します。
ところが、20世紀も後半になって交通と通信が発達すると、アメリカにもう一つの移民グループが押し寄せます。新移民New Immigrantと呼ばれる人々です。彼らにも以前の移民と同様に、アメリカにやってくるには経済的な理由や政治的な動機がありました。しかし、大きな違いは、多くの人々が故国を捨てる必要がないということです。輸送手段の進化によって、故国の風俗習慣をそのまま維持することも可能で、極端にいうなら英語が話せなくてもアメリカで生活してゆくことができるようになったのです。
こうして、アメリカの社会には故国とアメリカとの二つのアイデンティティの間を振り子のように往復する人々が多数を占めるようになったのです。
この振り子がぶれたとき、アメリカにいながら、反アメリカを自らの動機にする社会的な分断現象が発生し、その極端な作用がテロリズムなどの活動にもつながっていったのです。
表題にある、多国籍multiple citizenshipの概念はあくまでも法的なものですが、例えアメリカに帰化したとしても、精神的に多国籍である人々の洗礼を、アメリカ社会が受けているのです。
今、アメリカ人は従来のアメリカのビジョンを、こうした新しい社会にどのように適応させるかというテーマの中で戸惑い、苦しんでいるのです。これが、80年代以降、アメリカで繰り返し語られてきた多様性をどう受け入れるかという課題なのです。
アメリカは移民国家であれば、多様性はアメリカの大切な遺伝子です。しかし、その遺伝子は、もともとあったアメリカのビジョンとのシナジーsynergyがあってこそ進化できるのです。
このシナジーの創造があまりにも多難であるために、途切れることなく流入する移民によって変わる社会の中で、アメリカが消化不良を起こしているのです。
この消化不良を速攻で解決しようと、トランプ政権が誕生しました。しかし、多くの人は、まさに消化不良を市販の胃薬を乱用するように改善することができるのか疑問に思い、危険なチャレンジだと思います。それが、トランプの政策に反対する人々の動機となっているのです。
本来のアメリカのビジョンを見直すことと、トランプ大統領の唱える「アメリカ・ファースト」という政策の間にある違和感が、アメリカ社会を包んでいるのです。
50年代に活躍したエリアカザンという監督の映画に「アメリカ、アメリカ」という名画があります。そこに描かれている古典的な移民の物語をみるとき、その映画の主人公と同様の経験をしてきた人々とその子孫が、星条旗を理想とするアメリカのビジョンを創ってきた人々であることがわかります。
そんなノスタルジックなアメリカから、新しいアメリカにどのように脱皮できるか、アメリカ社会は左右に揺れながら、その試練の中でもがいているのです。
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