I can’t help you !
この一言が、今でも私の心に響いています。
といっても、これはちょっと恥ずかしいようなユーモラスな、同時に深刻な話です。
インドのムンバイでのことです。
その日、前日食べたものが悪かったのか、朝になって食あたりの症状に悩まされたのです。
しかもその日は休日でもあり、アメリカから来た仕事仲間で友人の夫婦とムンバイの街を観光する予定でした。
彼らとは朝9時にホテルのロビーでの待ち合わせでした。
そこで、彼らと出会ったときに、「実はお腹の調子が悪いんだよ」と英語で症状を訴えました。そのときに友人が発した一言が、I can’t help you !「僕は何もできないよ」でした。
一瞬、「なんだよ。思いやりのない」と思った私ですが、その後でやれやれと自省したのです。私は体調が悪いためか、アメリカ人との英語でのコミュニケーションの基本を忘れていたのです。
日本では、「お腹の調子が悪いんです」といえば、「大丈夫ですか?無理をなさらないで」とか、「それは大変だ。ゆっくり休んでください。お医者さんを呼びましょうか?」などといった答えが返ってくるはずです。
しかし、これは日本人ならではといってもいい、婉曲な表現なのです。
欧米では、自らの意思を明快に伝えない限り、相手にはその意図は通じないのです。
つまり、「お腹をこわしているんだよ」というのではなく、「今日は一緒に観光はできないよ。お腹をこわしているんだ」と、何をしたいか具体的に表明する必要があったのです。
それは、「阿吽の呼吸」という日本人特有のコミュニケーションスタイルがもたらず行き違いでした。
しかも、アメリカ人夫婦は、友人ではあるものの、ビジネス上では先輩にあたる大切な人でした。そのため、私にははっきりと予定に参加することを断ることをためらう「遠慮モード」まではたらきました。
結局、ずるずると一緒に観光をすることになり、立ち寄った場所場所でトイレにこもりっきりという、みっともなくも悪夢のような半日となったのです。人生最悪の1日というわけです。
その日の午後からはさすがにダウン。
熱もでたので、ホテルの部屋にこもって、予防のためにもってきた抗生物質を飲みながら24時間うなっていました。
二日後、症状もなんとか落ち着いたので、夫婦と夕食の時間に一緒になり、私はさすがに軽めの食事。幸いそれを境に嵐のような体調不良をなんとか克服できたというわけです。
遠慮や婉曲。これは日本人の思わぬ落とし穴です。
まして、体調が悪いのだから、「お腹の調子が」と一言いえば、通じるだろう、わかってくれよと思っても、それは日本人だけに通じる常識なのです。
しかも、英語で会話をしているわけですから、相手はこちらもアメリカ流のコミュニケーションスタイルで語っているものと誤解します。
自らの意思やニーズはちゃんと遠慮なく、かつ具体的に表明すること。
そんなにはっきりと言ってもいいのかなと思わず、そこまでと感じるほどに明快に話して初めて意思が通じるのだということを、再確認させられたインドの旅でした。
そして、明快に話しても相手は失礼だとか、横着だとかは決して思わないどころか、曖昧に話したほうが、何を考えているんだという不信感につながることを、ここで、改めて強調したいと思います。
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