2018年3月12日月曜日

中東と極東の間を動く国際関係の機微とは


【海外ニュース】
North Korea asks for direct nuclear talks, and Trump agrees.
訳:北朝鮮が核兵器について直接の対話を求め、トランプがそれに応じる
(New York Timesより)

【解説】
トランプ大統領が北朝鮮の金正恩と会談をするという報道に、日本が翻弄されています。
これは外交内政共に、過去にみられない政策の発動によって批判にさらされているトランプ政権ならではのカードの切り方といえましょう。
とはいえ、アメリカの極東に対する外交方針を考えるときに、常に念頭におかなければならないことがあることは知っておきたいものです。

我々が意識しなければならないことは、中国のことでもロシアのことでもありません。はたまた北朝鮮のことでも韓国のことでもないのです。それは、アメリカの中東政策の変遷なのです。

以前にも解説をしましたが、アメリカにとって最も大切な外交上のプライオリティは中東政策なのです。欧米の利害が複雑に絡み合ってきた中東諸国が長年にわたって不安定であることが、アメリカの外交政策にとって常に最も重要な課題なのです。
ユダヤ系のアメリカ人、さらにはプロテスタント系のアメリカ人の中でも保守派の人々にとって、アラブ諸国とイスラエルとの対立こそが、最も気になることなのです。中東への外交方針のあり方は、そのまま大統領選挙を含む、アメリカの重要な政治的イベントに直接影響を与えるテーマなのです。
トランプ政権は、政権発足以来、イスラム圏に対して常に距離をおき、イスラエルを支持する姿勢を貫いています。ロシア疑惑など様々なスキャンダルに揺れるトランプ政権にとって、最も気になるのはこれ以上失点を重ねて保守派からも引導を渡されることなのです。ですから、トランプ大統領は親イスラエル政策を貫くことで、保守派の人々の支持を繋ぎ止めようとしています。

この中東政策を固めた上で、はじめて極東への対応を考えるというのが、アメリカの伝統的な対応なのです。
それは、トラランプ大統領に限らず、彼とは真逆な外交政策に終始したオバマ大統領やそれ以前の歴代政権に共通したアプローチだったのです。

しかも、スタンドプレーの好きなトランプ氏であれば、外交での華やかなパフォーマンスを演じる舞台としては、中東より極東の方が遥かに適しているのです。中東問題はしくじると自らの政権基盤を揺るがします。しかも、中東は、ヨーロッパ諸国やロシアが長年にわたり高度な外交の取引の場としてきた地域で、外交の素人ともいえるトランプ氏にとっては派手なパフォーマンスをするにはハードルが高すぎるのです。

アメリカの極東政策は、日本での軍事的なプレゼンスを維持している限り、さほど大きな変化は要求されません。日本と韓国とが過去の戦争責任をめぐって不協和音を響かせていたとしても、アメリカにとってはそれはあくまでも日本と韓国の問題で、日米、米韓関係にはなんら影響はないのです。

今回、韓国はそこのところをよく意識していたといえましょう。
韓国が北朝鮮に歩み寄ったとき、アメリカは一見不快感を示しました。しかし、それは国連決議などをリードしてきたアメリカとしての建前にすぎなかったのです。アメリカからみれば、確かに北朝鮮は人権問題や核問題など、現代社会の常識とはかけ離れた政策に終始する敵性国家です。しかし、北朝鮮は伝統的に中国の後押しで政権運営をしてきたにもかかわらず、金正恩が指導者になって以来、その関係がギクシャクし続けています。中国の指導で北朝鮮の国際社会への復帰をともくろんでいた習近平政権にとって、金正恩の行動は余りにも異常だったのです。この図式に楔をさし、北朝鮮に北風ではなく太陽としての影響力を発揮する絶好のチャンスとアメリカが考えても不思議ではありません。

実際、異常な指導者とされる金正恩も、「異色」な大統領で評判のトランプ氏も、国際社会でより孤独した存在になりつつありました。そんな二人であればこそ、北朝鮮が中国からアメリカになびくことをどちらも心待ちにしていたのかもしれません。韓国はそのことを察知して、オリンピックを利用して先手を打ったことになるのです。

これにはアメリカとの磐石な外交関係を自負していた日本も翻弄されてしまいます。中国も同様です。
その上でトランプ氏が見落としていることを指摘するならば、中国と日本との関係がこのことでどう変化してゆくかということでしょう。
これは日本人自身が気付いていないことかもしれませんが、明らかに中国と日本とは雪解けが必要となっているのです。少なくとも中国側はそれを察知し、日本が中国の面子を潰すようなタイミングの悪いことをしないよう、間接的に日本側にメッセージを送っているはずです。

外交の世界では時には思いもよらないことが起こります。
戦前、犬猿の仲とされたヒトラーとスターリンが一時不可侵条約を結び、世界が唖然としたことがありました。今回のトランプと金正恩とのメッセージのやりとりも、それに匹敵する混乱への序曲かもしれません。

中東問題、極東問題、この二つの外交の極をめぐり、アメリカやロシア、そして中国やヨーロッパの主要国がどのように自らの振り子をふってくるのか。極東での変化の背景にある世界の多面的で複雑なやりとりを、我々ももっと意識してゆくべきなのでしょう。



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