2017年6月13日火曜日
アメリカとメキシコが対立する本音とは ~ バハ・カリフォルニアでの夕べより~
メキシコからの不法移民や安価な商品の流入に対するトランプ大統領の強硬策が話題になって久しいですが、CNNが面白い特集をアメリカで報道しました。
それは国境警備にあたる国境警備隊border controlの自殺率が高いという報道です。
「それはそうだよね。貧しく、厳しい生活をしている人がやっとの思いで国境までやってくる。なんとか、入国しようと必死になっているところを捕まえて、強制送還するんだろ。精神的にはストレスのある仕事だと思うよ」
先週、アメリカ人の友人とサンディエゴからカリフォルニアコーストを通って、メキシコのティワナTijuanaに陸路入国した後、こんな話をしました。国境はメキシコ側にもフェンスはありますが、アメリカ側にはさらにがっちりした壁が国境に沿って続いています。
「昔似たようのものを見たことがあるよ。そう、90年ごろまであった東西ドイツを隔てた壁、それに今でもあるイスラエルでユダヤ人居住区とパレスチナの人とを隔てた壁。あの二つの壁にそっくりだよ」
国境のフェンスに沿って並走するメキシコ側のハイウエイを走りながら、そんなことを友人に語りました。
翌日、メキシコ人の仕事仲間と夕食をとっていたとき、彼が面白いことを口にしました。
「ねえ、みんなアメリカが、例えばニューヨークやロサンゼルスがアメリカ大陸の文化の中心だと思っているだろう。でもね。その昔はテオキワカンTeotihuacanが中心だったんだよ」
「テオキワカンってメキシコシティの郊外にある古代インディオ(メソアメリカ)文明の遺跡のことだろ」
「そう。実はあそこの遺跡を調べていると、遠くは南米のチリやアメリカのアリゾナ州あたりから交易の商人や巡礼が来ていた証拠がたくさん出てくるんだ。人々はアメリカ大陸のあちこちから、あそこを聖地として崇めてやってきていたのさ」
「でも、今、メキシコはその後やってきたスペイン人に征服され、言葉もスペイン語になってしまった」
「そうだよ。でもね。変じゃない?よくアメリカ人はメキシコに行くと英語が通じなくなるって文句をいうだろ。確かにメキシコシティに行って英語を話してもよく通じないよね。でも、考えてみな、ここはメキシコだよ。僕は逆にアメリカに行ったら英語しか通じないし、スペイン語が役に立たない。困ってしまうよって言いたいよ。彼らは常にアメリカを中心に見てものを言っている。我々は、そんな彼らと違って、我々こそ、アメリカ文明の中心だというテオキワカンの発想が必要だってわけさ」
メキシコに行くと、征服民族であるスペイン人が拓いたスペイン風の街並みが美しいので、時間があればよくそんなオールドタウンを訪れます。
そこには、必ず荘厳なカトリックの大聖堂cathedralがあります。いかに彼らが中南米を植民地化し、そこの富を収奪するために布教に力をいれていたかがわかります。そう、メキシコはカトリックの国なのです。
そして、アメリカはプロテスタントが先に入植し、開拓して国家の礎を作りました。宗教戦争以来、様々な形で反目していた、キリスト教の二つの宗派が、新大陸でも南北でにらみ合っていたことになります。
ですから、アメリカ合衆国では当初同じ白人系でもカトリック系のアイルランド人やイタリア人の移民は差別の対象となっていました。アメリカの南、メキシコ人への偏見の原点はこの宗派の対立とは無縁ではないようです。
「そうだよね。宗教改革がヨーロッパで起こって、それまで特権を享受していたカトリック教会はそれができなくなる。財政的にも、権威の上でも新しい領土が必要になった彼らは、中南米にやってきた。そして、そんなカトリック教会と対立し、時には迫害を受けていたプロテスタントの人々や、ユダヤ系の人々が北米にやってきて、新天地で生活をはじめた。今でもその意識の対立が無意識の偏見や敵愾心の原点というわけか」
「ドナルド・トランプは、ビジネスマン。そしてプロテスタントの一派である長老派Presbyterianの家族の出身だったね。子供の頃から北アメリカの移民の本流だったわけだよ。プロテスタントは教会の権威を否定し、自分と神とを直接つなげようという運動だったから、カトリックのように荘厳な聖堂を必要としなかった。むしろ、その分、コツコツと勤勉に働くことで、蓄財をすることを良しとしていた。だから、アメリカは経済的に発展できたということか」
「そんな、アメリカに旧教の色濃いメキシコからの人が、しかも貧困者が入ってくることが、感情的に嫌なのだが、その本音は言い難い。だから、不法移民と安い商品という言葉にすり替えて、この21世紀の万里の長城を作ったというわけさ」
メキシコの太平洋沿岸はバハ・カリフォルニアといい、訳せば「下(しも)カリフォルニア」ということになります。ここには、美味しいワイナリーも多く、アメリカから休暇を楽しむ人もやって来ます。そんなワインと料理に舌鼓を打ちながら、トランプの政策をメキシコ人と批判するのは、今ではごく一般の話題となっているのです。
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