2018年6月19日火曜日

各論にこだわる日本、「しがらみ」を捨てたアメリカ




【ニュース】
Putin: It’s important to look for Russia-Japan WW2 peace treaty, solution that would reflect the strategic interests of both.
訳:プーチン大統領は、第二次世界大戦を解決した平和条約を見つめ、お互いの戦略的連携を見つめてゆきたいと表明(Reuterより)

【解説】
モスクワの街を歩けば、スーパーマーケットに寿司が並んでいます。
この寿司を生産しているのは、日本企業ではないとのこと。アメリカで発案されたカリフォルニアロールがヨーロッパ経由でロシアにはいってきたのです。この日本とアメリカとロシアが関わって流通している寿司をみると、それが現在の極東情勢を象徴したものとして映ってくるのも事実です。

ロシアの広大な国土の半分以上はアジアにあります。
その国境の向こうには、モンゴルがあり、さらには中国があります。
1960年代、共産主義社会での覇権をめぐり、中国とソ連とが激しく対立しました。以来中国とソ連、そしてソ連の権益を引き継いだロシアとは、アジアのライバルとしてお互いを意識し続けてきたのです。

そもそも、中国とロシアとの対立は旧ソ連時代にはじまったことではありません。
帝政ロシアの頃、南へと利権の拡大を目論んでいたロシアは、当時中国を統治していた清帝国への進出を目論みます。このロシアの南下に対して脅威を感じた結果勃発したのが日露戦争であったはずです。

なぜロシアと中国との関係をここで解説する必要があるのかというと、そこには大きな理由があります。それが北朝鮮への日本のアプローチのヒントになるからです。
確かにロシアはアジアにおいては常に中国を意識してきました。そんなロシアにとって、実は日本は極めて組みやすい相手なのです。
しかも、シベリアには日本が欲しがる膨大な資源が眠っています。そんなロシアがシベリアの開発のためにも日本の経済力に期待しているのも事実です。
こうしたお互いの利益を前向きに捉え、ロシアと強力なパイプを造ることができれば、中国とアメリカとの間で硬直した日本の北朝鮮政策に新たな可能性が生まれるはずです。ロシアのプーチン大統領は、日本のそうしたアプローチを強く望んでいることが、このヘッドラインからも見えてきます。

しかし、日本人には常にこうしたチャンスを見逃す弱点があります。
それは日本人の各論にこだわる癖に他なりません。つまり、日本人は各論にこだわりすぎ、大きな絵図面から外交問題を有利に解決するチャンスを何度も逸してきたのです。
ロシアとの間の北方領土問題、そして北朝鮮との間の拉致問題への日本の取り組み方は、そんな日本の弱点を象徴しています。不当に拉致された人々への家族の思いに疑問を抱いているわけではありません。拉致を解決するには、拉致からあえて離れた大きな視野と戦略が必要だと思うのです。
ロシアとの間も同様です。北方領土を解決するためには、日本とロシアとの経済協力が双方にとって無視できなくなるほど強くなることが大切なのです。

拉致問題一点に日本がこだわりすぎれば、北朝鮮への外交的な対応そのものが後手にまわります。そして北方領土にこだわれば、ロシアとの経済協力はなかなか進みません。そうした状況を一番利用できるのは中国であり、北朝鮮そのものなのです。
安倍首相は、トランプ大統領が金正恩との会談で拉致問題に触れてくれたことを、国民に強調しました。
しかし、トランプ大統領が、拉致問題に触れたというのは、日本のメッセージを伝えたよということに過ぎないのです。アメリカが積極的に日本の利益のために拉致問題に触れたのでない以上、それは何ら意味のない伝言ゲームにすぎません。

結局日本は単独で北朝鮮と拉致問題について交渉をせざるを得ないわけです。そんな状況の中で日本が拉致問題を理由に北朝鮮との対話を進めないことは、北朝鮮からみるならば、日本を交渉相手からブロックし、中国を味方につけながらアメリカに対応するためには極めてありがたいことなのです。

一方、ロシアは北朝鮮への影響力を維持するためにも、日本との連携を視野にいれたいはずです。しかし、何かを持ち出せば北方領土にこだわる日本の対応にロシアの幹部がうんざりしているのもまた事実でしょう。

北朝鮮問題は、単に北朝鮮に核を断念させて、国際社会の仲間入りをさせることを意味しているわけではありません。北朝鮮問題は、北朝鮮という扱いにくい国家の存在を利用して、極東の中でいかに自らの利益や影響力の伸長をはかろうかと模索する関係国同士の外交合戦なのです。
日本が、北方領土と拉致問題という「動かない石」にこだわればこだわるほど、そうした関係国の複雑な交渉の蚊帳の外に日本が置かれてしまい、最終的に拉致問題や北方領土問題自体の解決も遠のいてしまうのです。

どこの世界でも、政治は「しがらみ」によって動いています。
アメリカの歴代大統領も、支持母体の政党や有権者という「しがらみ」を常に意識して政権を維持してきました。それは日本でも中国でも同様です。ところが、トランプ大統領はそうした「しがらみ」が最も希薄な大統領として選挙に勝利しました。そして、金正恩も中国という「しがらみ」を離脱した指導者でした。ですから、この二人は様々なスタンドプレーが可能だったのです。

日本の場合、多くの政権は国内では自民党内部の「しがらみ」があり、国外ではアメリカとの強い「しがらみ」に左右されながら外交の舵をきってきました。そんな政治家の「しがらみ」が、拉致問題と北方領土問題への取り組みにも大きな影響を与えているようです。
しかし、今のアメリカは「America First」というスローガンを大きく掲げています。「しがらみ」よりも自国の利益を優先させようとするアメリカに最も翻弄されているのが、今でもアメリカを「しがらみ」と捉える日本なのです。

日本がこうした実態を改めて見直しながら、改めて中国とロシアとの立ち位置を冷静に見つめた独自のリーダーシップを取ることができれば、北朝鮮問題への日本の影響力にも大きな変化がおこるはずです。

2018年6月12日火曜日

Homo Sapienceは生き残れるのか



【ニュース】
Who was responsible? Neither kings, nor priests, nor merchants. The culprits were handful of plant species, including wheat, rice and potatoes. These plants domesticated Homo sapiens, rather than vice versa.
訳:これは誰の責任なのだろう。王でもなければ、聖職者でもない。はたまた商人でもない。犯人は一握りの植物だった。小麦や米、そして芋といったような。これらの植物が人類を家畜化したのだ。我々が彼らをそうしたのではなく。
(Yuval Noah Harari著Sapiensより)

【解説】
AIの進化に、哲学が追いつかない。
こういう風に懸念する人が多くいます。つまり、科学技術が進歩し、人々の生活様式が大きく変化し、人の寿命までも操作できるまでになった現在、はたして人類はその技術を深化させ、社会を維持してゆくだけの思索力と寛容力、さらに洞察力を獲得できたのだろうかということが問われているのです。

この見出しの一文が綴られているSapiensという書籍は、そんな人間の科学技術へのうぬぼれに鋭い視点で迫っています。
人類は自らの行動様式や社会を変革する大きな転機を幾度か経験してきました。
その一つが農業革命です。一万年以上前に人々は植物を栽培することを覚えました。多くの人は、それを大きな進歩と捉えます。ところが、著者はそうした我々の常識に鋭いメスをいれているのです。

農業を発明する前、人々は狩猟生活をしていました。
自然の中を、小さな集団で移動しながら食物を得て、共同体を維持していました。では、そんな折に人類を見舞った天敵や天災の脅威や、部族同士の争いを農業が解決し、人々はそれ以上に豊かな生活を満喫できるようになったのかと著者は問いかけます。
農業によって社会が生まれます。そして、人類は豊作不作によって自らの運命が左右されるとき、神に祈り宗教が規模の上でも組織の上でも影響力を持つようになります。
そして、分業と階級が生まれ社会が膨張します。するとほとんどの人は必死で育てた作物を税金で権力者に奪取され、宗教的儀式にも捧げるようになります。以前は獲物を追って必要なときに食事をとっていた人々が、飢饉となるとなす術もなく飢餓の犠牲になるのです。狩猟採集生活をしていた人々より豊かになった人はほんの一握りの権力者だったというわけです。
とはいえ、生産は増え、人口も増えますが、その需要に追いつくために、労働はさらに過酷になり、豊かで人口の多い地域は他の部族からの侵略の危機にもさらされました。

これが農耕の発明の所産というわけです。
そして、人口が増えるに従って、この負の歯車の回転が加速するために、社会が進化してゆき、それを停止させることが不可能なまま、世の中は変化を続けていったというわけです。

しかも、面白いのは、農耕によって、人類が穀物を支配し、自然を支配したように我々は考えがちですが、本当の勝者は穀物の側だったというのです。
例えば、小麦は中東北部に群生していた植物に過ぎないのに、人類によって世話をされ、雑草や害虫を駆除してもらい、収穫のあと種まで保存され翌年に再びよく肥えた土地にそれを撒いてもらいます。種としての小麦はこのように人々を家畜化し、奴隷のように働かせることで、世界中に拡散し、繁茂することができたというわけです。

農業革命のあと、18世紀以降の産業革命を経て、さらに人類はIT革命を経験します。人類は今までに到達したことのない文明の渦に巻き込まれています。300年以前の人は、1,000年以前の人とそう変わらない生活様式の中で生きていました。しかし、300年前と現在とを比較すれば、その違いは明白です。

さて、ここで我々が考えなければならないことは、文明の進化と共に、これからも人類は幸福な発展を遂げられるのかということです。著者は人類が今や神の領域に至りつつあると強調します。つまり、19世紀の小説フランケンシュタインがAI技術の進歩で可能になろうとしているのです。また、遺伝子などの操作によって、まったく新しい、ホモ・サピエンスではない人類が誕生する可能性もあるのではといわれています。

人類がどこまで神の領域に入り込むことができるのか。また、利便性を追求し、情報も電子信号で簡素化された人類同士が、お互いの背景をしっかりと理解し、何か課題がおきたとき、理性と洞察力、そして愛情によってものごとを解決することができ続けるのか。我々に突きつけられた課題は、人類の存続に関わる重大な課題というわけです。

人類の誕生以来、地球は過去に経験をしたことのない生命体の大量絶滅に関わってきました。乱獲や家畜化、そして自然破壊は人類が言葉を操り、社会を形成し始めた頃から加速したといわれています。そうしたツケをこれから人々はどのように支払ってゆくのか。

Sapienceの著者ハラリ氏は、中世の軍事を専門とした歴史家です。そんな彼が記した本書は、従来の歴史的事象を細かく記述するのではなく、Homo Sapienceという人類の数万年に及ぶ歩みを鳥瞰し、そこから大胆に歴史そのものを見つめ直すことで、未来学へと視点を拡大してゆきます。
歴史から何を学ぶか。年号や英雄の名前を覚えることが歴史を学ぶことではないことを著者は明白に語っているのです。

2018年6月4日月曜日

ニューヨークでのユダヤ系のパレードから世界をみれば


イスラエルの建国を祝うユダヤ系の人々


【ニュース】
More than 1,000 police officers will secure the Israel Day Parade in New York City. The annual event will make its way up Fifth Avenue on Sunday.
訳:ニューヨークでのイスラエル建国記念日のパレードを1,000名以上の警察官が警護。日曜日の五番街で記念行事が敢行。(JTA : JewishTelegraphicAgency より)

【解説】
6月3日の日曜日にニューヨークでは、ユダヤ系の人々の大きなパレードがありました。
五番街を中心に道路を封鎖して、ニューヨーク各地のユダヤ系のコミュニティの人々が、イスラエルの独立70周年を祝ったのです。
パレードはお祭り気分で、ニューヨーク選出の議員やテレビの著名なコメンテーターまで、様々な人がマーチに加わります。
ニューヨーク市警は、パレードの妨害を警戒してバレードの現場のみならず、その周辺の道路まで車の立ち入りを規制。その地域のホテルにチェックインする人も、タクシーを途中で降りて荷物を運ばなければなりません。

先日、アメリカはエルサレムに大使館を移動させることを決め、エルサレムがイスラエルの首都であることを公認しました。この決定にアラブ系の人々が猛反発。流血騒動にまで発展したことは記憶に新しいはずです。

「ニューヨークの人はトランプ嫌いが多い。でも、今回のエルサレムへの大使館の移転には賛成している人が多いのです」
そう私の友人はコメントします。
「でも、今回のパレードはそのこととは関係ないはず。70周年の記念行事は相当前に予定していたはずだから」

実は、私の友人にもユダヤ系の人がいます。エルサレムからカナダのトロントに移住し、英語関係のオンライン教育の分野で活躍するその人は、「これでよかったんだ。テルアビブが首都だというのは単なる外交上の妥協だった。ユダヤ系の人は皆エルサレムに首都があってこそのイスラエルだと思っているさ」というのです。彼も確かにトランプ政権には懐疑的な人だったのですが。

アメリカの世論は複雑です。トランプ政権の政策に不満をもっている人でも、各論の中では様々な意見が飛び交います。そして、ユダヤ系の人々のスタンスは、当然世論に大きな影響を与えるはずです。
「ニューヨークタイムズは、リベラルな新聞だというけれど、ことユダヤ系の人々に関する論調となると慎重になるんだよ」
とニューヨークの友人は指摘します。
そうした背景を証明するかのような今回の大掛かりなパレードをみたときに、その盛況の背景には、やはりエルサレムが首都としてアメリカに承認されたことがあるのではと疑ってしまうのです。

ところで、北朝鮮がミサイルでアメリカや日本を威嚇していた頃、アメリカにとってはイスラエルが絡む中東問題が外交の基軸で、中東での火種がおさまらない限り、北朝鮮と交戦状態になることはないのではと解説したことがあります。
そんなアメリカの心理をついて、韓国が北朝鮮にアプローチをかけ、トランプ政権はその機会を逃さずに行動にでようとしたのです。そして、同じタイミングで、エルサレムへの大使館の移転を発表します。これは偶然の一致ではなく、アメリカの世界戦略を考えれば当然の帰結といえましょう。

このパズルを日本が把握できずにいることが、今回の北朝鮮問題で日本が蚊帳の外におかれている理由でもあるのです。ニューヨークを意気揚々とマーチするユダヤ系の人々と、北朝鮮問題とは、アメリカの外交政策の中でのコインの表と裏だということがお分かりになったと思います。

安倍政権は外交でかなりの成果を上げていると自民党の中では評価されていますが、実際はその逆なのではと考えてしまいます。まず、第一にアメリカの生々しい民衆の感触に対して安倍政権はあまりにも鈍感です。トランプ政権ができる前、外務省はヒラリー・クリントンが当選するものと決め込んで、トランプ側の人脈とはほとんどコンタクトを持たなかったといわれています。先ほど解説した、アメリカの世論の複雑さを考えたとき、それはあり得ないアプローチです。そしてトランプ大統領が登場したとき、慌てて安倍首相はアメリカを訪問したわけです。
こうしたボタンの掛け違いがなぜ起こるのか。
それは、政治家の無知と官僚のおごりのせいかもしれません。しかし、さらに言えることは、海外の人と庶民レベルのネットワークができていない日本の外交戦略に瑕疵があることをここで指摘したいのです。

そんなことを思いながら、パレードを見ていると、人々がひときわ熱狂してきます。みると、ニューヨーク出身の上院議員チャック・シューマーがパレードに加わって歩いていたのです。ニューヨークのブルックリン地区には大きなユダヤ系コミュニティがあります。彼はそこで生まれ育った生粋のユダヤ系移民の子孫なのです。そして、彼は民主党の上院議員。共和党の保守派が地盤のトランプ政権とは対立した存在です。
しかし、そんな彼でも、エルサレムへの大使館の移転の決定には強い支持を表明したのです。この複雑さを理解できない限り、そしてこうした人々とのネットワークをしっかりと維持しない限り、日本はアメリカの世界戦略に翻弄され続けるのかもしれません。

午後4時、パレードの喧騒が一段落し、週末のニューヨークに静けさが戻ってきました。
私は、ある友人の家を訪ねるためにタクシーに飛び乗ります。タクシーの運転手は運転中ずっと無線を使ってウルドゥ語で友人と話しをしています。彼は明らかにパキスタンから移住してきたイスラム教徒です。ニューヨークのタクシーの運転手にはそうしたイスラム系の人々が多くいます。彼らは今回のパレードを複雑な気持ちでみていたはずです。

ニューヨークから世界情勢が見えてきた一瞬です。