2018年3月12日月曜日

中東と極東の間を動く国際関係の機微とは


【海外ニュース】
North Korea asks for direct nuclear talks, and Trump agrees.
訳:北朝鮮が核兵器について直接の対話を求め、トランプがそれに応じる
(New York Timesより)

【解説】
トランプ大統領が北朝鮮の金正恩と会談をするという報道に、日本が翻弄されています。
これは外交内政共に、過去にみられない政策の発動によって批判にさらされているトランプ政権ならではのカードの切り方といえましょう。
とはいえ、アメリカの極東に対する外交方針を考えるときに、常に念頭におかなければならないことがあることは知っておきたいものです。

我々が意識しなければならないことは、中国のことでもロシアのことでもありません。はたまた北朝鮮のことでも韓国のことでもないのです。それは、アメリカの中東政策の変遷なのです。

以前にも解説をしましたが、アメリカにとって最も大切な外交上のプライオリティは中東政策なのです。欧米の利害が複雑に絡み合ってきた中東諸国が長年にわたって不安定であることが、アメリカの外交政策にとって常に最も重要な課題なのです。
ユダヤ系のアメリカ人、さらにはプロテスタント系のアメリカ人の中でも保守派の人々にとって、アラブ諸国とイスラエルとの対立こそが、最も気になることなのです。中東への外交方針のあり方は、そのまま大統領選挙を含む、アメリカの重要な政治的イベントに直接影響を与えるテーマなのです。
トランプ政権は、政権発足以来、イスラム圏に対して常に距離をおき、イスラエルを支持する姿勢を貫いています。ロシア疑惑など様々なスキャンダルに揺れるトランプ政権にとって、最も気になるのはこれ以上失点を重ねて保守派からも引導を渡されることなのです。ですから、トランプ大統領は親イスラエル政策を貫くことで、保守派の人々の支持を繋ぎ止めようとしています。

この中東政策を固めた上で、はじめて極東への対応を考えるというのが、アメリカの伝統的な対応なのです。
それは、トラランプ大統領に限らず、彼とは真逆な外交政策に終始したオバマ大統領やそれ以前の歴代政権に共通したアプローチだったのです。

しかも、スタンドプレーの好きなトランプ氏であれば、外交での華やかなパフォーマンスを演じる舞台としては、中東より極東の方が遥かに適しているのです。中東問題はしくじると自らの政権基盤を揺るがします。しかも、中東は、ヨーロッパ諸国やロシアが長年にわたり高度な外交の取引の場としてきた地域で、外交の素人ともいえるトランプ氏にとっては派手なパフォーマンスをするにはハードルが高すぎるのです。

アメリカの極東政策は、日本での軍事的なプレゼンスを維持している限り、さほど大きな変化は要求されません。日本と韓国とが過去の戦争責任をめぐって不協和音を響かせていたとしても、アメリカにとってはそれはあくまでも日本と韓国の問題で、日米、米韓関係にはなんら影響はないのです。

今回、韓国はそこのところをよく意識していたといえましょう。
韓国が北朝鮮に歩み寄ったとき、アメリカは一見不快感を示しました。しかし、それは国連決議などをリードしてきたアメリカとしての建前にすぎなかったのです。アメリカからみれば、確かに北朝鮮は人権問題や核問題など、現代社会の常識とはかけ離れた政策に終始する敵性国家です。しかし、北朝鮮は伝統的に中国の後押しで政権運営をしてきたにもかかわらず、金正恩が指導者になって以来、その関係がギクシャクし続けています。中国の指導で北朝鮮の国際社会への復帰をともくろんでいた習近平政権にとって、金正恩の行動は余りにも異常だったのです。この図式に楔をさし、北朝鮮に北風ではなく太陽としての影響力を発揮する絶好のチャンスとアメリカが考えても不思議ではありません。

実際、異常な指導者とされる金正恩も、「異色」な大統領で評判のトランプ氏も、国際社会でより孤独した存在になりつつありました。そんな二人であればこそ、北朝鮮が中国からアメリカになびくことをどちらも心待ちにしていたのかもしれません。韓国はそのことを察知して、オリンピックを利用して先手を打ったことになるのです。

これにはアメリカとの磐石な外交関係を自負していた日本も翻弄されてしまいます。中国も同様です。
その上でトランプ氏が見落としていることを指摘するならば、中国と日本との関係がこのことでどう変化してゆくかということでしょう。
これは日本人自身が気付いていないことかもしれませんが、明らかに中国と日本とは雪解けが必要となっているのです。少なくとも中国側はそれを察知し、日本が中国の面子を潰すようなタイミングの悪いことをしないよう、間接的に日本側にメッセージを送っているはずです。

外交の世界では時には思いもよらないことが起こります。
戦前、犬猿の仲とされたヒトラーとスターリンが一時不可侵条約を結び、世界が唖然としたことがありました。今回のトランプと金正恩とのメッセージのやりとりも、それに匹敵する混乱への序曲かもしれません。

中東問題、極東問題、この二つの外交の極をめぐり、アメリカやロシア、そして中国やヨーロッパの主要国がどのように自らの振り子をふってくるのか。極東での変化の背景にある世界の多面的で複雑なやりとりを、我々ももっと意識してゆくべきなのでしょう。



2018年3月6日火曜日

『英語が公用語』のフィリピン、その語学マーケット事情とは





Filipino is also designated, along with English, as an official language of Philippine. It is the standard resister of the Tagalog language. Tagalog is among the 185 languages of the Philippines identified in the Ethnologue.
フィリピン語はタガログ語を標準化した英語と並ぶフィリピンの公用語。とはいえ、タガログ語はエスノローグ(世界の言語についての出版物)によって認識されている、フィリピンで喋られる185の言語の中の一つの言語なのだ。(ウィキペディアより)

マニラから、北に車で6時間、リンガエンLingayenという町にきています。これですでに3回目の出張となります。
マニラから北に伸びる高速道路を2時間半、そこから右手にゆるやかな山並みを見ながらのどかな田園と村や町を抜けて西へと車を走らせます。
最初のとき、平日の朝出発したために、マニラ市内の渋滞にはまり、7時間以上かけて現地にはいりました。
それに懲りて、今回は日曜日の早朝にマニラを出発。途中までは実にスムーズでした。しかし、高速道路を降りて、一般道を走行すると、まず葬式の車の列、次に道路工事の渋滞、さらに教会などの様々なセレモニーの車の列にぶつかり、何度ものろのろ運転を強いられます。
地方都市は日曜日の方が渋滞が激しいというのもの皮肉なものです。

リンガエンは、Pangasinanパンガシナン州の州都です。そこはリンガエン湾に面して長い浜辺が伸びる風光明媚な地方都市。魚の養殖のみならず、木製の家具の産地としても知られています。第二次世界大戦では、日本軍とアメリカ軍とが激しく交戦した場所としても知られています。

ここでの仕事は、質がよく、真面目に働いてくれるスカイプ英会話の先生を発掘することです。
今、日本では英会話の先生が求められています。児童英語や中高校生向けの会話指導、さらには英文添削ができる人材が不足しているのです。
フィリピンはもともとアメリカの植民地であったこともあり、多くの人が英語をしゃべります。
そもそもフィリピンを構成する8,000もの島々は、それぞれに独自の文化があり、場所によって言語が異なります。英語がフィリピン全土で共通に話される言葉であるといえば、多少誇張になりますが、それもまた現実です。

元来、フィリピンの共通語は、マニラ周辺で話されるタガログ語でした。実際、タガログ語は、フィリピン人に共有される言語として改良もされ、今ではフィリピン語という名称が与えられました。
しかし、フィリピンにはタガログ語とは文法も表現も異なる様々な言語が共存しています。そんなフィリピン人にとって一応第二言語とはいえ、英語は全国レベルで公の場所で通じる言語に他なりません。

ただ、フィリピン人の英語がいわゆる英語を第一言語として使用する国と同じく質の高いものかというと疑問が残ります。最近セブ島などで日本とスカイプで結ぶ英会話講座を多くみかけますが、確かに日本人のスピーキング力をつけるためには彼らは最適な人材でしょう。児童英語の場合は特にそうで、フィリピンの人々の明るい気質は、児童に楽しみながら英語を学ばせるには最適です。
しかし、多くのフィリピンの講師が発話と同じレベルで読み書きが堪能かといえば、それは事実ではないのです。

そこで、英語の4技能に全てに対応出来る優秀な人材を発掘するために、はるばるリンガエンまで出張するのです。
それには理由があります。フィリピンもマニラやセブといった都市部はアジアの他の地域と同様で、より高い賃金を求め、人が頻繁に転職します。人材マーケットの競争がだんだん激しくなってきているのです。
しかし、パンガシナン州のような遠隔地になれば事情は異なります。
しかも、ここで暮らす人々は、家族を支えるために勤勉に働きます。英語のレベルも人によってはかなり高く、今一緒に活動している人たちは、アメリカ人の英語講師と比較してもひけをとらない総合的な英語力をもっているのです。

リンガエンで働くある英語の講師の家を訪ねました。
彼の住む村は市内から車で30分ほど。そこには水道もなく、人々は井戸水で生活しています。川に面した村の主要な産業は農業と川での漁業。人々は椰子の葉を編んだ屋根の家で生活しています。
村には小学校しかないために、優秀な生徒はリンガエンで中等、高等教育を受けるのです。そして英語の先生になって公立高校で教鞭をとることが、彼らにとっては最高のステータスシンボルというわけです。

フィリピンは3月を過ぎると熱くなり、4月から5月にかけて熱暑に見舞われます。そんな南国の強い陽射が傾く頃、リンガエンでの仕事のあと、隣町のダグパンDagupanの宿に泊まります。
翌朝、仕事の前にそこの魚市場を訪ねました。朝水揚げされた見事な魚があちこちで威勢よく売られていました。
リンガエンまでのタクシーの運転手にその話をすると、彼も副業で魚の養殖をしているとのこと。
複数の仕事を持って生計をたてるのは、フィリピンではごく当たり前のことなのです。英語教師の多くも例外ではありません。
物価はだんだんと上がるものの、賃金が追いつかない。それはマニラなどの都会に限らず、こののどかな地方都市でも同様なのです。



2018年2月6日火曜日

名言格言に見る英語圏のビジネス文化とは



【ニュース】
Fight fair, but avoid fair fights.
訳:フェアに戦え、でも相手と互角には戦うな

【解説】
アメリカ人のビジネスマインドを知る上で、あるビジネススクールの教授が言ったこの一言は参考になります。
Fairであること。それは法律を守り、相手を騙したり、陥れたりする策謀を弄せず、正々堂々であれということを意味します。
しかし、avoid fair fightsつまりフェアな戦いを避けろという言葉が後半に書かれていることが気になります。
前半の文章と後半とが矛盾しているように見えるだけでなく、後半ではフェアであることを否定しているように思えるからです。

アメリカ人には、握手をするときしっかりと相手の目をみて、握力をもって相手の手をグリップする人が多くいます。
手の中に武器を隠していないという証明でもある握手。それをちゃんと握力をもって行うことが、相手とフェアに仕事をすることを暗黙に伝えるメッセージになっているわけです。

しかし、握手をした相手とビジネスをすること、それはボクシングでいえばリングの上での戦いに臨むことを意味します。
リング上での戦いでは、正々堂々と戦うことと、うまく戦うこととを両立させなければなりません。反則をせず、ドーピングをしたり相手の体への不正なアタックをしたりすることはフェアではありません。しかし、同時にリングの上ではしたたかに闘わなければならないというわけです。この文章の後半で語っているのは、そのことなのです。

対戦相手をうまく心理的に追い込んだり、威圧をしたり、またあえて激しく打ち返さず、相手が疲れるのを待って執拗に攻撃したりといった戦略は、リングの上ではなんら問題はないわけです。

このメンタリティが、ビジネスをする上でも応用されるというのが、この格言の意味するところなのです。
法的にも、財務的にも、戦略的にもしっかりとアドバンテッジをとるようにしながらビジネスを進めることは、別に悪いことではないというわけです。
この対応を日本人は「したたか」と思い、時には嫌悪します。
ビジネス文化の違いによるこうした対応を受けると、日本人は相手に対して警戒心をいだいてしまうのです。

一歩日本を離れると、我々は様々な異なったビジネス文化に接します。
例えば、日本人はミスを嫌います。しっかりと準備して練習を重ねた上で、ビジネスというリングにあがろうとします。

If you don’t make mistakes, you aren’t really trying(もしミスをしないのならそれは真剣に物事に取り組んでいない証拠なのだ)という言葉を紹介しましょう。これは、コールマン・ホーキンスという有名なジャズミュージシャンの一言です。
この言葉はビジネスでもよく引用されています。つまり、人はミスを繰り返しながら成長するものだという彼の言葉と同様の格言が、ビジネス界でもよくみられるのです。
確かに、アメリカ人はミスは仕方がないと思い、その原因追求にやっきになるよりは、むしろそれを踏み台にして未来に向かおうというスタンスをとります。
それに対して、日本人はミスに対して徹底的な調査を求め、責任の所在を追求します。意識がミスをおこした背景、つまり過去の検証にむけられるのです。

確かに、日本人は本番になってミスがないように、まず充分すぎる準備と意識共有を図ろうとします。しかし、しっかりと準備をして前に進もうとする日本型のビジネスマインドに対して、アメリカ人はTo improve is to change, to be perfect is to change often.(改善してゆくということは変化を受け入れること。そして、完璧であるということは変更を頻繁に行うこと)と反論します。
まずは行動だと彼らは思うのです。そして変化を繰り返し、試行錯誤を重ねながらビジネスを進めようとするわけです。
実はこの名言は、アメリカ人のものではありません。イギリスの首相として第二次世界大戦をリードしたウインストン・チャーチルの一言です。しかし、これはアメリカ人にとても好まれる一言です。

こうした彼らの発想に対して、日本人は「それはちょっと無責任だ」と反論するかもしれません。
予定を変えたり、状況の変化に応じて対応を変えたりすることに躊躇しない欧米の人が、それでいて自らの立場を守るときは豹変し、contract is contract(契約は契約だ)といってアドバンテッジをとろうとします。
このメンタリティに対応しながら、どのように相手とWin-Loseではなく、Win-Winの戦いに持ち込めるかが、海外でビジネスをする上で求められる交渉力なのです。

それには、日本人が日本人のみと相撲をとっていてはだめなのです。日本にも積極的に異なる発想や常識をもつ海外の人を受け入れ、海外の人との業務経験を蓄積する必要があります。同時に、海外にもどんどん自らをさらけ出し、失敗の中からノウハウを磨いてゆく気概が求められるのです。

2018年1月30日火曜日

組織とリーダーシップの取り方への意識変革にさらされる日本企業の未来とは



【ニュース】
The global economy requires a new set of leadership skills-imbued with a global mindset, multi-functional and effective across cultures and nationalities-that were not as critical even a decade ago.
訳:世界経済は、地球規模の意識によりそい、文化や国境を越え、あらゆる状況で機能でき効果的に活動できる、10年前ですら求められなかった新たなリーダーシップを必要としている(Nicholas Brealey社刊行、What is Global Leadership?より)

【解説】
前回(2018年1月9日号)、Core Competenceの新たなあり方に日本企業が晒されている状況を、自動車業界を例にとって解説しました。

今回は、さらにこの問題を「系列」という日本企業のピラミッド構造を見つめながら掘り下げたいと思います。
日本の大企業は、長年下請けのピラミッドに支えられてきました。
自動車業界を例にとると1sttierから3rdtireさらにはその下に至る下請けの重層構造の上に大手と呼ばれるメーカーが君臨しています。
そして、エンジンの製造者やブレーキの部品製造者などの大型の下請け企業の規模は、ともすれば自動車を販売する会社よりも大きい場合もあるほどです。

これは、単に自動車業界に限ったことではありません。全盛期の家電業界をはじめ、ありとあらゆる製造業がこの構造に支えられてきました。この下請けに支えられる重層構造を系列とよび、世界の人々はその言葉をそのままKeiretsuと呼んできたことはよく知られた事実です。日本企業でのリーダーシップはこの縦社会でいかに舵をとるかというノウハウそのものだったのです。

バブルの頃、このKeiretsuこそが日本企業のパワーであると多くの人は思っていました。ところが、バブルがはじけ、日本企業が苦境にさらされると、海外の人はこのKeiretsuの閉鎖的な構造が、日本の経済力を世界から孤立させているのだと批判しました。そして、その頃から国際企業でのリーダーシップの取り方そのものが変化をはじめました。

日本企業にとってみれば、ある意味でKeiretsuは便利のよいものでもあったのです。長年の付き合いの中で、かなりの仕事が阿吽の呼吸でできたのです。「いつものようにお願いします」といえば、相手は即座に対応でき、「このあたりを去年のモデルより滑らかに」といえば、過去から累積された経験に基づいて、下請けはメーカーが満足する部品を即座に調整してもくれました。

ところが、IT技術の進歩によって、このピラミッド型の構造だけに頼っていては物事が進まなくなりました。ITの業界ではシリコンバレーを中心に多くの企業がM&Aを重ね成長しました。そして、製造業の多くはこれら巨大化した新たな企業の技術を取り入れてゆかなければならなくなったのです。

もともと日本のような強力な下請けの絆のなかった海外の企業は、部品の調達や技術の移管をフラットなネットワークの構築によってまかなってきました。自動車業界でいうならば、例えばフォードは世界中から部品を調達し、部品の製造者は常に価格や技術の競争を通して、自らを売り込んできました。
一方、日本の企業は海外に進出する場合でも下請けに助力してもらいました。また、海外に進出したときも、常に本社が主導して海外の拠点を自らのピラミッドの中に取り込んでゆきました。日本から常に管理者を送り込み、日本のやり方を現地に移植することが、海外との付き合い方であると考えてきました。

そんな日本企業が、IT技術など先端のテクノロジーを導入するために、M&Aや世界とネットワークして成長した海外の企業と付き合い始めたとき、状況が一転したのです。
点と点とを繋ぎながら、フラットで交錯した組織構造をもって成長した海外の企業と、縦社会のシンプルなピラミッドに頼ってきた日本企業との発想の違いが、様々な摩擦を生み出したのです。フラットで世界に拡散する新たなネットワークに対して、いわゆるプロアクティブで、インターラクティブなリーダーシップを発揮するノウハウを日本企業は育てていなかったのです。
例えば、日本企業が海外に発注した商品が、その企業のM&Aによって、それを生産する部門がいきなり売却されたために、部品調達そのものの機会が消滅することもありました。
開発がいきなりストップしたり、納期が大幅に遅れたりということも日常茶飯事となりました。そして、こうした課題が顕在化したときに、それを解決してくれる人的組織的ネットワークを海外に有することもできないまま、グローバル経済の変動に翻弄されることが日常となったのです。

得てして海外の企業はマトリックス型の組織で運営されます。日本語に訳せば交錯型組織とでもいうのでしょうか。
この組織構造では、レポートラインや製造開発のラインが上に向かって一直線に伸びるのではなく、例えば財務上の決裁は香港で行い、人事はシンガポール、そして開発の責任はその製品ごとに最も優秀な組織が存在する世界各地に点在といったように、組織の指示系統やレポートラインが複雑に交錯しているのです。日本企業は下請けも含めて、こうした企業構造をハンドルできないままに翻弄されるのです。

さらに、日本企業はピラミッド型の重層構造が厚くなればなるほど、カジュアルにネットワークする海外の企業と比較すると決裁decision makingにも時間がかかり、様々な根回しを経てやっとGOサインがでたときは、海外の企業はそのプロジェクトそのものに対してとっくに興味を失っているということがしょっちゅうおきるのです。

今、日本企業はこうしたグローバル企業のネットワークや、新規ビジネスを生み出すフラットな組織構造への対応を迫られているのです。1sttierの下請けの持つ重層な組織が、こうした情報のメーカーへの伝達の阻害要因になっていることも考えてゆかなければならないのです。
より早い情報の入手と、その情報への対応、そしてそこからいかに迅速に舵をきることのできる柔軟な組織を創造できるか。これを怠るとき、日本企業の将来は暗雲に覆われるのです。

2018年1月23日火曜日

ノンバーバル「非言語」と異文化の誤解について理解しよう



【ニュース】
Non-Japanese people want to create meaningful relationships, But they cannot do so if you do not help them.
訳:日本人だけではなく、我々も意義ある人間関係を造ろうとしているんだけど、色々と教えてくれないと無理なのです。(外国人の日本人へのコメント)

【解説】
(1)異文化の罠につかまると、善意が誤解の連鎖に変わってしまう

仕事で海外の人と一緒に活動するとき、なんでこんな反応をするんだろうと、外国人に対して不信感をいだいたことはありませんか?
実は、その原因の一つは日本人側にあることに気づいていない人が意外と多くいるのです。
もちろん外国の人は意義ある人間関係を構築しようとしています。
しかし、日本人が助力しないかぎりその達成は不可能というわけです。

英語ができるということと、外国人とうまくコミュニケーションができ、ビジネスができるということは、必ずしも一致しないのです。
その言語の、相手に合った使いかた、そして言語の他に必要なコミュニケーションの方法を知らない限り、海外の人とうまくビジネスをすることはできないのです。

相手に合った言語の使い方とは、

 1. 聞き方と喋り方、あるいは書き方
 2. 相手の頭の中に入るような情報の出し方
 3. プレゼンテーションやフィードバックのノウハウ

などを意味します。

そして、ここで言葉以外のもの、つまりNon-Verbal(非言語)とは何かについて考えてみましょう。非言語とは、

 1. ジェスチャーや表情
 2. 言いたいことの表明の仕方
 3. 相手とのやりとりのテクニック

のことです。

まず、言語以外のコミュニケーションについて触れてみます。

 1. ジェスチャーや表情とは、正に文字通り、どのような手振り身振りをすれば相手に自分の言いたいことが伝わりやすくなるのかであり、笑みや深刻な顔を使い分けることによって相手との言葉のキャッチボールを少しでもスムーズにすることを意味します。
 2. 言いたいことの表明の仕方とは、いつどのような形で自らの主張を切り出し、合意を求めるかという、プレゼンテーションのテクニックです。
 3. 相手とのやりとりのテクニックとは、相手にどういう方法でメッセージを伝えるか、わからないことをどのようなタイミングで質問するかという、相手とのコミュニケーションを促進する上での目に見えないノウハウです。

この3つの要素をしっかりと理解した場合、たとえ語彙力などが充分でない人でも、相手との信頼関係を構築でき、ビジネスでの交渉も、英語が上手くてもこれらの要素を満たしていない人よりも上手く進めることができるのです。もし、聞き取り能力が不安な人でも、その不安をかなり解消することができるのです。

そして、こうしたノウハウの習得のためには、まず「異文化」とは何かということを理解することからはじめなければなりません。

(2)常識や判断が通じない異文化環境について理解しよう

まず、以下のコメントについて考えましょう。

Japanese people are used to living in a monoculture. This has deprived them of the need to explain individual differences in thought in order to understand each other.訳:日本人は、単一文化の中で生活することに慣れてきました。これは、人と人とが意見の違いがあるときに、それをちゃんと説明しお互いに理解する必要性を疎外してきたのです。

これは、多くの外国人が日本人に対して指摘していることです。
この言葉は、グローバルな環境では、日本人がついつい言外に意味を含ませて相手に伝えようとする「阿吽(あうん)の呼吸」での意思疎通は通用せず、いかにしっかりと言いたいことの内容を説明することが大切かということを意味しています。そして彼らはこう説明します。

In this multicultural community called earth there is no value in vagueness as individuals from various backgrounds seek business and social opportunities together.
訳:この地球という多様な文化が共存する社会では、様々な文化背景をもった人々が一緒にビジネスやお互いの社会的な利益を追求するとき、曖昧模糊とした表現は通用しないのです。

まず知っておきたいことは、異文化環境では、今まで自分が正しいと思ってきた常識や判断が通用せず、時には裏目に出ることもあるということです。それが、「異文化」という環境の特徴なのです。
しかも、自らの常識に従った行動は、あまりにも日常的なことなので、多くの場合無意識になされ、それが故にまさか相手が全く異なった受け取り方をしているということにも気づくことなく、誤解が深刻になっていく可能性があることを知っておく必要があります。
これが異文化間のコミュニケーションで発生する悪循環なのです。

2018年1月16日火曜日

海外の人と仕事を進めるノウハウについて


【ニュース】
Intercultural communication is used to describe the wide range of communication processes and problems that naturally appear within an organization or social context made up of individuals from different religious, social, ethnic, and educational backgrounds.
訳:異文化コミュニケーションは、異なる宗教や社会、民族、そして教育環境が生み出す課題やコミュニケーションのプロセスを幅広い視野でとらえて使用される言葉である。(ウエキペディアより)

【解説】
海外の人とどう働くかというテーマを考えるとき、まず海外の人が日本人と仕事をするにあたって、どのような点に不満を持っているかを知っておく必要があります。

今まで内外を含め、4000人の企業エグゼクティブに対して、いかに日本人が海外で仕事をし、海外の人がいかに日本人と業務を共にするかというノウハウについて研修をしてきました。
その中で、海外の人が口を揃えて語るのが、日本人と情報を共有することの難しさでした。しかし、このことを日本人側に伝えると、十分に説明してあるのにどうしてだろうと首を傾げます。

一方、日本人は海外の人に対して、品質管理が雑で、物事の締め切りをまもらないと不満を言います。完璧な準備を求め、その上で仕事を進めたがる日本人からしてみると、まず動きながら調整をして仕事を進めようとする海外の人のビジネス文化に馴染めないのです。

一口に海外といっても、アジア諸国もあれば欧米もあり、そのビジネス文化は多様です。日本人が知っておかなければならないことは、日本人の仕事のやり方も、その多様なビジネス文化の一つに過ぎないという事実です。日本だけが特別でもなければ、仕事への取り組み方が秀でているわけではないのです。

ここで、考えたいのは二つの異なる方策です。
一つは、海外の人を海外からということで特別に意識するのではなく、同僚として仲間に受け入れてゆくことです。つまり、このことは日本人だけの機微の問題だからといって海外の人に情報を選んで伝えることは控えたいのです。情報をうまく共有するには、主観ではなく、客観的にその情報に背景やロジックを説明する必要があります。阿吽の呼吸ではなく、できるだけ詳細に理由や状況を伝える必要があるのです。
そしてもう一つは、海外の人の文化背景や、ビジネスコミュニケーションの方法への理解と尊重の精神を養うことです。つまり、最初に日本の事情をオープンに共有し、日本の職場で「ガイジン」として相手を分け隔てするのではなく、同時に、海外から来た人の背景を尊重するという二つの異なるアプローチを共有させることが必要なのです。

先にも触れましたが、ビジネス文化は、欧米とアジアでは著しく異なります。また、欧米でも、一例を挙げれば、ドイツとアメリカとでは水と油といってもいいほど、コミュニケーションの方法が異なります。
であれば、海外の人とうまくコミュニケーションをして、ビジネスを進めてゆくための方程式は存在しないのです。
ただ、一般的にみて、日本人は海外の人よりも詳細な質問や確認を相手にすることを遠慮しがちです。異文化環境では、相手と理解し合っているかを積極的に確認しない限り、誤解が累積するのです。また、仕事の途中で、うまく進んでいるかどうかを、具体的に伝え合うフィードバックを怠りがちです。日本語環境でのコミュニケーションスタイルは、英語に比べると、自らの意図を間接的に相手に伝え、一をいうことで十を理解してもらおうとしがちです。これが情報共有の不足へと繋がってゆくのです。

つまり、相手のコミュニケーションスタイルにいかに対応するかを、その人が所属する文化への理解を深めながらノウハウとして蓄積してゆかなければならないのです。その上で、日本人のコミュニケーションの方法を相手と共有しなければならないのです。
問題は、日本人が自らの文化について、それがあまりにも日常的なことなので、客観的に理解し、説明できないことです。
そのためには、彼らから積極的にフィードバックを受けることも必要です。彼らがどのように我々のことを思っているか、満足しているのか、あるいは誤解していないのか、常に言葉で確認するのです。この「言葉」で確認するという行為を繰り返すことで、お互いの意思疎通が促進されます。

異文化環境では、こちらがおかしいなと思っているときは、必ず相手も疑問に思ったり不快に感じたりしているはずです。お互いにしっかり仕事をしてよい結果をだそうとしながら、コミュニケーション文化の違いに気付かないために誤解が拡大するのです。

オープンに意見を交換する中で、試行錯誤を繰り返し、双方が歩み寄るフェアな環境を創造する必要があるのです。

2018年1月8日月曜日

未来型の Core Competence の創造とは



【ニュース】
China e car venture future mobility names brand Byton, eyes U.S., Europe.
訳:中国の未来型の自動車へのカーベンチャーはアメリカとヨーロッパを視野にバイトンというブランド名を(ロイターより)

【ニュース】
Byton has revealed an electric vehicle that it thinks presents a glimpse at the future of how we will drive and interact with cars.
訳:バイトンは将来我々がいかに運転とデジタル上のインタラクションとを共有してゆくかというテーマを見据えた電気自動車を披露(BBCより)

【解説】

(1) Bytonが自動車業界に本格参入

中国とヨーロッパ、そしてアメリカの頭脳を集め、自動車産業に新しい台風の目を創造しようという動きが注目されています。ロイター通信、BBC放送などが積極的に報道しています。

コンシューマーテクノロジー分野での見本市で知られるCESが、現在ラスベガスで開催されています。
そこで注目されたのが、中国の資本によりBMWやAppleなどの技術者が共同して開発した新型の電気自動車Bytonでした。
Bytonという名前は、Byteson Wheelsからきています。Bytonの母体となるFuture Mobility Corp.は中国の電気自動車開発会社で、ここにBMWの技術部門で活躍してきたCarsten Breitfeld氏が中心となって制作してきたのがBytonという車です。
この車は、我々が日常触れているインターネットの世界を車に導入し、車とインタラクティブな環境との究極の融合を目指した製品で、開発センターは南京とカリフォルニアのサンタクララ、ミュンヘンにあります。そして、技術者の中には、グーグルやApple、さらにはTeslaやNissanに関わった人々までが含まれています。
Bytonはまずアメリカとヨーロッパの市場で2019年にデビューし、その後販売ネットワークを拡張してゆくことになっています。もちろん中国も重要なターゲットです。

(2) 人材ネットワークがCore Competenceのあり方を変える

このプレスリリースが物語ること。それは人のネットワークです。
今まで企業はその企業が持つコアテクノロジー(基幹技術)Core Technologyを基に、その企業技術と文化をいかに大切にしながら海外に進出し、そのテクノロジーを海外に移植してゆくかというテーマに没頭していました。日本の企業はその典型です。ですから、海外に進出するとき、自らのスペックに対するこだわりが極めて強く、海外で採用した社員もそのスペックを学ぶことにプライオリティをおかされてきたのです。これが通常のグローバル企業の技術移管Technology transferのあり方でした。そしてこのCore Technologyによって育まれるのがCore Competence(強い競争力)であると考えてきたのです。

この企業経営の土台が根本から変化しようとしているのです。
ある意味で日本人が一番苦手としている、海外の知恵とネットワークして、コンセプトを造り、そこに資本を投下して製品を作ってゆくという手法がBytonをはじめとした自動車業界をも席巻する世界各地のベンチャー企業の手法となっているのです。

昔、Silicon ValleyシリコンバレーとSilicon Alleyシリコンアレーのコラボという発想がありました。
ハイテク産業都市が集中するシリコンバレーで技術を開発し、もともと出版産業などが多くコンテンツを制作することのできるニューヨークのalley(路地)で技術にコンテンツを注入して製品化するというのが、電子ブックなどの開発の背景にあったのです。自動車産業の場合、このSilicon Alleyにあたるのがコアテクノロジーを有する既存の自動車メーカーと下請けネットワークでした。ここに世界中の未来型知識を導入することが、現在版のSilicon ValleyとSilicon Alleyのコラボなのです。エンジンとシャシChassisの技術にいかに世界の知恵と結合させ、integrate(統合)してゆくかが課題なのです。

(3) 日本の製造業の課題とは

そもそも、Bytonはなぜ日本のマーケットをターゲットにしていないのでしょうか。おそらく日本は日本の自動車業界が既にネットワークしているため、進出が難しいと思ったからでしょうか。それとも、日本に進出するには日本独特のガラパゴス的な要望に応えてゆく必要があり、その手間とコミュニケーションの難しさを考えたとき、とりあえず日本はスキップしておいたほうが効率的と思ったのかもしれません。

こうしたことから推測し、考えなければならない日本の産業の求められる将来像。それは、世界の人材と自由に交流できるノウハウと人の養成に他なりません。そして、日本のノウハウの輸出というスタンスから、日本のノウハウと世界の知恵との融合というスタンスに、製造量の戦略をシフトさせることから、新たなCore Competence(強力な競争力)を創造することが必要です。
そのための発想と組織構造を企業が育成してゆくことが求められているのです。